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キャロル・ケイ vs ジェームズ・ジェマーソン論争を読み解く①

0. 本稿の目的

モータウン・レーベルは、ジャクソン5シュープリームス、フォー・トップスといったグループを輩出したことで知られる。モータウンの生み出した数々の楽曲の、特徴的なベースラインは、いったい誰が演奏したものだったのだろうか?

従来、これらの名演は、ジェームズ・ジェマーソン(JJ)というベーシストによるものだとされてきた。ところが、ベーシストのキャロル・ケイ(CK)は、多くの楽曲を演奏したのは自分であると主張し、この主張の真偽をめぐり白熱した議論がなされてきた。

音楽史家であるBRIAN F. WRIGHTは2019年の論文 "Reconstructing the History of Motown Session Musicians: The Carol Kaye/James Jamerson Controversy" (doi:10.1017/S1752196318000536) で、これまで注目されてこなかった史料を参照しながら、この論争を分析している。

本ブログでは、この論文を何回かに分けて読み解きながら、ケイ vs ジェマーソン問題(KJ問題)について考えていきたい。

1. 本ブログの筆者(評者)について

本ブログの筆者(以下、「評者」)である私は、アマチュア・ベーシストである。この論争の当事者であるCKからは、ベースの個人レッスンを受けたこともある(いつか別の機会に詳述したい)。評者にとってはCKは師匠にあたるとも言えるが、どちらかに肩入れすることなく、記述には公平を期したいと考えている。

それではWrightの論文を読み解いていこう。

2. Wright論文の解説

2-1. 冒頭部(pp.78-79)

要約

モータウン・レーベルの成功は、腕利きのセッションミュージシャンたちに支えられていた。しかし、当時の多くのレコードがそうであったように、モータウンのレコードにはこれらのミュージシャンのクレジットは記載されていない。JJはデトロイトを、CKは西海岸を拠点にしたベーシストで、どちらもモータウンで仕事をしていた。CKは自分がモータウンの歴史から消されたと主張しており、JJの弟子たちはそれに反論してきた。

この論文では、モータウン労働組合の契約書と、CKが個人的につけていたセッション記録を参照することで、この論争に新しい光をあてる。JJの弟子たちが主張していたよりもCKの貢献は大きいものだが、一方でCKの主張をすべて鵜呑みにするわけにもいかなさそうだ。

冒頭部で論文筆者(以下、「筆者」)は、自らの姿勢を明らかにする。KJ論争はともすればヒートアップしがちで、ネット上でもどちらかに肩入れした感情的な議論が大半であった。音楽史家である筆者は、あくまでも史料を丁寧に読み解くことで、公平に事実を明らかにしていこうとする。

(つづく)